shastahealing.com  大阪と東京を拠点に『ヒーリング教室 シャスタ』を主宰。ヒーリング教室や瞑想教室を開講しています。北カリフォルニアのシャスタ山やエネルギーワークについて徒然に書いています。
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月光
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あの出来事があったのはもう10数年以上経つのだろうか。あの頃、僕はハワイにある大学に行っていた。
苦学生だったので毎日毎日、バイトと宿題に追われる日々だった。睡眠時間を削っては美術室のアトリエに篭って夜中の1時頃まで好きな絵も描いていた。

ほとんど毎日、同じスケジュールを忙しく過していた僕だった。その頃の生きている目標といったら『卒業』の二文字だけだった。「とにかく卒業しなければ何も始まらない。その為には毎日、忙しいながらも勉強とバイトをして少しずつでも目標に歩いていかなければ」と思っていた。そんな思いは僕の周りのクラスメートの殆んどが持っていたはずだ。

そんな忙しい日々を過していたある晩の出来事だった。もう夜の7時を過ぎていて、大学の周りの山々は暗闇の中に溶け込もうとしていた。僕はバイト先から図書館へ向かう途中だった。図書館で明日までの課題を仕上げなければいけなかった。

「サトシ。ちょっと話があるの」と暗闇の中から声をかけられた。見るとクラスメートの女の子だった。彼女はフィージーから来ていて、肌が東洋人に比べて黒っぽい。闇の中の彼女は、まるで夜の中に溶け込んでしまいそうな感じだった。
「私、あなたにお願いがあるの。私のお願い聞いてくれないかしら」と意味深な事を言う彼女。
「僕にも出来る事と出来ない事があるよ。出来る事ならしてあげるよ」と僕が言う。
彼女は僕の言葉では納得しなかった。願いを言う前に僕に約束をせまる。
「そんな訳の解らない事は出来ない」と言うと彼女は意を決したように言った。
「願いを聞いてくれなくてもいい。あなたに私の願いを言うわ」
「私を殺して欲しいの」そう言った彼女の瞳には涙が浮かんでいた。
そして彼女は道の上に大の字になって叫びだした。「さあ。殺せ。サトシ。あなたなら出来ると思っていたわ。殺してちょうだい」

そんな彼女を見ながら僕は自分でも驚くくらい落ち着いていた。「ここまで彼女の思いを聞いてしまったら。今晩の宿題は諦めるしかないな」などと頭の隅に想いが浮かんだ。
「しょうがないな。さあ、さっさと起き上がって、僕についてきな」僕は暗闇の中へと歩き出した。
「何処へ行くの?」突然歩き出した僕に、驚いたように尋ねる彼女。
「望みどおりに、死に場所に連れて行ってあげるよ」そう言ってスタスタと足早に歩く僕に彼女はフラフラとしながら着いてきた。

10分ぐらい歩いて着いた場所は、近くのビーチだった。
僕の思い出のビーチ。暗闇の中、良く一人でこのビーチを歩いた。勉強で頭がパンパンに疲れた時、人間関係に疲れた時、ホームシックになって家族を思った時、そして親父が死んだ時、いつでもこのビーチは時に優しく、そして厳しく僕を癒してくれた。

そのビーチに彼女を連れて行った。何か考えがあった訳じゃない。唯、彼女にこのビーチの厳しさと優しさを見せたかった。このビーチは自分の心を映し出す鏡のようなものだった。自分の心の中の甘さやいい加減さを映し出してくれる。きっと彼女はそんな風に自分の心を見つめるような機会が無いのだろうと思った。

「僕は夜中に一人でよく此処へ来るんだ。だから此処に居る精霊達は僕の友達のようなものなんだ」
「どうして此処へ連れてきたの?」
「ほら。この海を見てごらん。死霊が海の上に沢山浮かんでいるのが見えるかい?今、この海へ飛び込んだら確実に死ねるよ。見ててあげるから、海の中を歩いていってごらん」
「えっ。なんて事言うの?私にも死霊がいるくらい解る。本当に死んでしまうじゃないの」
「怖い」

「死にたいんじゃなかったの?」そう言いながら砂の上に座った。
「そんな。本当は死にたい訳じゃなかったの」そう言って彼女も砂の上に座った。
「本当は死にたい訳じゃないの。でも、私の人生の全てが終わってしまったの。せっかく奨学金を貰って大学に来たのに、今はもう卒業は夢になってしまった。大学を卒業して国に帰って仕事をする夢も消えてしまったわ。伝道師になる夢も消えてしまった。もう私には何も無いのよ。死ぬしかないの」
そう言って彼女は話し出した。僕は彼女に話をさせて、何も聞かなかった。
何時しか雲の切れ目から月が顔を出していて、ビーチには月光が差していた。

彼女の心が落ち着いたようだった。「あら、もう死にたいと思わないわ。もう海も怖くない」
「うん。死霊はもう何処かへ消えてしまったようだね」
そう言いながら、僕達はビーチを離れて学校へと戻った。

「ああ。あなたのご先祖さまが、心配して着いてきてくれているよ。もし国に帰る機会があったら、お参りしなくちゃね」そう言うと、彼女は不思議そうに考えていた。
「あなたの命はあなただけの物じゃないんだよ。沢山の人達がいてあなたが存在するんだよ。あなたは一人ぼっちじゃない。ほら、こうしてご先祖さまがついてきているじゃない」そう言うと彼女は、立ち止まって後ろを見た。
「私には見えない。でも、居るのは感じるのよ。」

あくる日の事だった。学校の中を歩いていたら、彼女に会った。彼女はどうやら落ち着いた様子だった。遠くの方から手を振ってくれた。
それが彼女を見た最後となった。彼女はその日を境に退学してしまった。
厳しい規律のある宗教大学だ。規律に触れて退学になってしまったようだ。
彼女が居なくなって、僕は普段どおりに忙しい日々に戻っていった。
彼女を時々思い出す。でも最後に見た彼女の手を振る姿を思い出したら、もう「死にたい」と言うような事はないだろうと思う。
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by rev-umachan | 2010-05-29 22:54 | 個人セッション(ストーリー) | Trackback | Comments(0)