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ARITA
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お酒はあまり飲まないが、近所にある「ARITA」というバーにたまに行くようになった。マスターも店の雰囲気も好きなのだけれど、煙草は嫌いだし、酔っ払いと話しをするのも面倒なので、誰もいない夜中過ぎにいつも行くことにしている。
夜中過ぎに歩いて「ARITA」に行くと店の中にはマスターが一人だけで、ポツンとカウンターの中に立っている事が多い。

そこのバーに通うようになるまで、ほとんどお酒を飲む事がなかったので、お酒についてそこのバーで色々と学んだ。カウンターに座って慣れた手つきでマスターが水割りやカクテルを作るのを見ていると、まるで観客席から舞台で踊っているフラメンコダンサーを見ているようで、出来上がって僕の目の前に差し出された水割りはまるで芸術品のようだ。

水割りを作る時、氷を入れて、ウイスキーを入れて、水を入れて、そして機会のように安定した動きでマドラーを手でかき混ぜるしぐさは、簡単で誰でも出来るように見えても素人とはかけ離れた熟練さを感じる。そして彼の入れたその水割りは、他の人が入れたどの水割りよりも美味く感じる。

「かき混ぜる時の氷の解け方、そしてウィスキーと氷と水の混ざわり具合を見てマドラーを同じ力配分と同じスピードで回転させて、ちょうど良い時に止める。氷が溶けすぎても、溶けなくても水割りは美味しくないからね」
バーテンを20年以上経験しているマスターは、事もなくそう言う。

その日も店にはマスターが一人でいて、僕はいつもと同じカウンターの席に座った。
いつものように差し出された水割りを一口飲んで、思わず「美味い」と言ってしまう。
そんな僕を見て少し笑みを浮かべながら、いつもと同じようにマスターが僕にたわいもない話をする。

「バーテンダーの大会でよく審査員をするんですが、
参加する人達は、300人以上いる会場でカクテルを作るんですよ。
いつも1人の前でカクテル作っている人が、そんなに多くの人を前に立ったら、
ほんと、緊張して手が震える人いますよ。そういう人はそれで減点になるんですがね。
でも、僕もそういう同じ道通って来たから、しょうがないんです。気持ちは解ります。
皆、そういう道を通って成長するもんですからね。」

「へえ。そうなんですか。
そんな経験豊富なマスターなら、今まで何人も後輩を育ててきたんじゃないですか?
教える事って難しくないですか?」

「そりゃ、今まで何人もバーテンの後輩を育ててきましたよ。技術的な事はある程度教えられるんですよ。マドラーの回し方、氷の溶け方。シェイクの仕方。そんな事柄は教えられるんですよ。
でも技術が一番で独立して開業して成功するかって言ったら、それは解らないんですよ。お客さんとの接し方。それは、人それぞれだから教えるのは無理なんです。接客は教えられない。でも、それが一番大切は事なんですけどね。」

そんな話を聞いて、以前デザイナーのノブさんが話していたのを思い出した。
「絵を描く事は教えられる。技術的な事は今まで先人達が培ってきた方法が色々あるから、
技術を教えるのは可能なんだ。でも、絵を描こうとするモチベーション(気持ち)を教える事は出来ない。それは人それぞれ違うからだし、それが個性だからなんだ。」

きっとマスターやノブさんが言った事は、今まで何回も色んな処で聞いてきた事なんだろうけど、最近「教えたいのに教えられない事。そういうのがいっぱいあるなぁ」とヒーリング教室で教えていて思う事が多くなった。


僕は子供が好きというわけでは無い。むしろどちらかというと苦手な方だ。
でも、どうして子供が寄ってくるのだろう。特に自閉症と呼ばれる子供に好かれる事が多い。

「家の子は、2時間一緒にいるぐらいで心をゆるして膝の上に乗るような子じゃないんですよ」
初めて会った子供が、僕の膝の上に座っているのを見てお母さんが驚いて言った事があった。

たまたま訪れた家で子供が膝の上に座ってきた。その様子を見てお父さんが目を丸くして驚いていた事もあった。
「珍しい。誰にも心をゆるさないこの子が、初めて会った人の膝の上に座ってるなんて」

ノブさんが言った言葉が頭に残る。
「ヒーリングは教えられても、子供に信用されて膝の上に乗せる方法なんて、どうやったら教えられるんだ。それはもうウマ君だけが持っている個性なんだよ。そういうのはもって生まれた物じゃないのかな」

基本的なヒーリングの技術は教えられる。でもモチベーションや個性を教えるのはとっても難しいし、無理なのかもしれない。そういうのを教えすぎてしまったら、逆に個性を潰してしまう事になるかもしれない。
それでも僕は信じたい。僕の先生が可能性を信じて僕に教え込んでくれたように、僕も同じようなモチベーションを持っている人に出会え、可能性を信じて教える事が出来る事を。


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「Sちゃんの場合」 
ブログにアップした内容をPDFにしました。下記からダウンロード出来ます。
http://shastahealing.com/docs/example-s.pdf
by rev-umachan | 2011-10-08 00:46 | アルジャーノン プロジェクト
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